『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』著者セミナー(3)パネルディスカッション2012年12月10日

『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』著者セミナーレポートの最後です。


パネルディスカッション
関わるすべての人がWinを感じ取れるビジネスモデル「Winの累乗」を実践するには?


パネルディスカッションではパネラーとして日本マイクロソフトの牧野さんと鎌倉投信の新井さんが最初にプレゼンをして、そのあとパネルという流れでした。

セミナー全体として、仕組みを小暮さん、NPOの立場から小沼さん、企業の立場から牧野さん、株主の立場から新井さんが話すという事で様々な立場の人の考えが聞けて良かったです。


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日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 牧野益巳 氏

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インドにおけるICT教育:

外資系ITベンダーがどういったWinを作ったかの実例を紹介

一つはインドの教育支援、もう一つは日本でどんなことをしているか


インドは人口12億人の国でITが盛んな一方で経済格差、教育格差が激しい国。

絶対貧困層が一番多いと言われていて、そこから抜け出すことができない。

教育も受けられず、国全体としては経済が伸びながらも二極化している。


そこで、ITを活用して教育と雇用のミスマッチを是正する取組を行った。


研修した教育者 20万人 

その教育者が教えた人数 1,000万人


PCを使った教育は面白いので子供の興味を惹く。

そこで学んだ子供がITの職を始める事でだんだんと社会からドロップアウトしなくなっていった。

子どもがITを習うと親も習い始めるようになった。


こうした取り組みはインド政府からも評価され、2008年には10年計画で世界規模で500億円かけて教育支援を行うことにした。


世界中で大人も参加できるITアカデミーを開いた。


研修した教育者 70万人 

その教育者が教えた人数 3,500万人


本業で社会的なベネフィットを起こした。


教育コミュニティへ支援を行い、教員のレベルアップを図った。

それにより全体的な経済発展シナリオへ。

就業機会が拡大し、第一次、第二次産業から第三次産業へ労働力のコンバートが促進された。


こうした取り組みが評価されてインドにおけるマイクロソフトは国に根ざした会社と思われるようになった。

特に政府と中小企業でそうした評価が高い。

一つのエコシステムを作り上げた。


日本での取り組み:

日本では5万人の教員へ支援している。

他にも元気なコンピューターおじいちゃん、おばあちゃんを作りたいと考えている。

ニートへの就労支援も。


一年に三カ所くらい集中的に取り組む地域活性化プロジェクトというものがある。

これまで40カ所くらいで行っており、今年は岩手県が対象。


若者が苦労している現実。

希望に乏しい世の中へ。

失業率やワーキングプアといった課題が若年層に表れている。


社会に求められていることをICTで支援する。

セーフティネットで自立支援

コミュニティーを作り、尖った人材を育成する

国際競争力の復活


2011年に小学校に入学した子どもが大学を卒業する時、世の中の仕事の約60%は今存在しない仕事になると言われている。


マイクロソフトの企業ミッション

「すべての人々の可能性を最大限に引き出すための支援」


マイクロソフトでは限界集落の復活や障害者の方就職、ニートの再就職を一緒になって取り組んできた。


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鎌倉投信株式会社 取締役 新井和宏 氏

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株主と企業のあり方について:

キーワードは「いい会社をふやしましょう」

営利企業だけではなくNPOも作った

小さな金融ベンチャー


会場内で投資信託で投資をしている人?あまりいない。

銀行や証券会社では売らず、口コミで直接販売している。


企業の持続可能性と投資


築85年の古民家を再生するところから始めた。

750坪のうち500坪を占める裏の畑や山林の手入れも行っている。

なぜ投信会社が古民家再生や畑や山林の手入れを?

 →自分たちがいい会社、日本が抱える課題解決の当事者であるため。


小さな会社の取組ではあるが、実際に鎌倉投信の考えに共感していい会社になると言ってくれた上場企業も存在する。

 →女性の雇用に真剣に取り組んだ総合臨床ホールディングス。


日本で将来に何を残したいか?という価値観。

投資は金儲けではない。


自己へのリターンの最大化→投機(儲かればよい)

社会性へのリターンの最大化→寄付(自分は損するが社会をよくする)

この中間が投資とすると、自己だけでなく社会へのリターンも受け取るのが投資


社会に"長く"何かをし続ける。

お金に関心をもってください。

お金を実際に企業に届ける必要がある。


こういう事を言うとSRI(社会的責任投資)だと言われるが違う。


SRIと鎌倉投信の違い

 アンケート ⇔ 直接

 客観的 ⇔ 主観的

 形式的、網羅的 ⇔ 実質的、持続的


SRIでは全体の社会貢献度のスコアが高い会社が投資対象となる。

鎌倉投信では本業で社会貢献してくださいと言っていて、そこを重視する。


投資先の事例
エフピコ:


障碍者雇用率16.3%

なぜこんなに障碍者雇用率が高いのか?

彼らがいないと利益があがらないから。


日本における食品トレイの半分がエフピコ製。

そしてリサイクルトレイを作ることができるのはエフピコだけ。


スーパーなどで回収された食品トレイの分別を障碍者が担当している。

健常者がこの作業がやると単純作業の連続で集中力が落ち、生産効率下がってしまう。

しかし、障碍者は単純作業をずっと集中して出来るため生産効率が下がらない。


原油価格が上がれば上がるほどリサイクルトレーを作れるエフピコは原材料費で他者に対して優位に立てる。

こういう話をすると聞いた人が家に帰ってトレイの裏を見てエフピコ製か確認して子どもに自慢話をしたり。


いいことをしていて、それを利益に結びつけられる会社はある。

それを見せるのが鎌倉投信の仕事。


デジタルハーツ:

創立して半年でマイクロソフトに採用されたソフトウェアのバグ(不具合)を見つけ出す仕事をしている会社。


マイクロソフトに乗り込んで社員のデバッガと不具合を見つける競争をした。

日本人は細かいのでアメリカ人が感じない不具合に気が付く。デバッグすると差が明確に出る。

競争に圧倒的な差をつけて勝って採用された。


創業メンバーは全員フリーターで社員、登録社員6,000人の半数は元ニートやフリーター。

彼らは仕事をするのにも時間がかかるだけ。得意な分野ではやる気が違う。


フェリシモ:


社員全員がCSR担当者であり、専門の部署は不要と言っている。

何が大事が?

CSR担当を設置すると、あそこがやればいいと他人事になる。

自分事にして欲しい。



そのようなことをしていて企業として儲かるのか?


ヤマトHD:

荷物1個につき10円を東日本大震災関連に寄付すると発表した。

利益の1/3に相当する金額。それを聞いて人はどう選択するか?

宅配便のサービスはどこも似たようなサービスレベル。そんな中でどこを使おうとするか?


事業に共感できるかといった視点が選択肢の一つとなり、どんどん取扱いが増える。

特に東北地方でヤマト運輸が選ばれる結果となった。



トビムシ:

社債を鎌倉投信が全額購入した。

岡山県西粟倉村と岐阜県飛騨で活動している会社。


森林の間伐のコストにかかるコストを間伐材の商品化で稼ぎ出すというビジネス。

地域再生と林業再生に取り組んでいる。

この会社にできなければ日本の林業に未来はないという気持ちで投資した。



なかなか株主の理解が得られない活動ではあると思うが、こういう視点を持った所が増えて欲しい。



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パネルディスカッション

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小暮)

NPOと企業のかけあいについて小沼さんから


小沼)

コンペティターからコオペレーターへ変わりつつあると感じている。

これまでNPOは企業に対して公害問題や環境問題などで敵対する「北風」アプローチしていた。

今は「太陽」。NPOと企業が一緒になって取り組む方向へ。企業と組むことで大きな取組ができる。

小さいレベルではNPO同士の協業も生まれている。

社会の課題が解決できればいいという目的は同じ。

一緒に同じ方向に向かうようになった。


小暮)

企業とNPOではカルチャーや言語も違う。課題は?


小沼)

「留職」は一つのアプローチ。

企業もNPOも相互に理解しあう必要がある。

留職プログラムでは一定期間企業人が外に出る。

NPOと企業間での人材交流が大切ではないか?


小暮)

企業同士のコラボレーションで面白いと思うのは?


小沼)

留職プログラム採用企業同士をくっつける情報交換会を行った。

将来的に何か出来ないか?と考えている。

チームになって複数社で共同でなにかやって欲しい。


海外の事例ではIBMはFeDexと組んでいたりする。

つなぎ役になって敵同士と思われている会社同士をお見合いさせる。

NPOはつなぎ合わせるのが得意。


【地域とコミュニティーについて】


小暮)なぜ企業は社会のことまで考える必要があるのか?


牧野)

日々の仕事は大変で短期的な利益も大事だが、それだけではない中長期的に正しいことをする必要を感じている。

「ソーシャルバリュー」

企業市民としてどうなのか?


新井)

「三方よし」という考えは日本において古い時代からあったが、その後西洋化の流れの中で収益性を第一に問われるようになった。

今は持続可能的でない短期的な利益重視から中長期的な利益への過渡期だと考え、それを解決するのにベットしている。


小沼)

行政がやっていた部分を他が担当するようになりつつある。

企業だけではできない部分を相互補完する。行政、企業、NPOの三者が共に取り組む。


牧野)

日本が置き去りにした問題があちこちで起きている。

世の中を変える時に一つの力ではできない。個人でも行政でもNPOでも。

これまで以上にNPOの重要性が増してくる。



小暮)

Q.こういった取り組みは働いている会社の人にとってどういう反応、感触があるのか?


牧野)

先ほどの話でもあったがCSR部門ができるとそこがやるようになってしまう。

全社で社員を巻き込みながら取り組む。短期、長期混ぜたアプローチ。

それらを数値化して確認してみる。

コミュニティーにおいていいコーポレートか?という質問を社員にするとそのポイントが年々向上している。

役員は全員強く感じると回答し、一般社員含めると90%以上がいい会社だと考えている。


新井)

いい会社になりたいといって変わった会社がある。

また、アメニティというグリーンシート公開会社では鎌倉投信が投資したことによりWBSが取材に来たと言っていた。

地方で知名度のない会社が「テレビでいい会社と言っていた」と地元の人に言われたと喜ばれたケースも。


小沼)

個人が社会を変えるのは何か?そういった取り組みは目が輝き出す。

青年海外協力隊から帰って来て大学の同期と話したら「相変わらず熱いな。早く会社に入って現実を知れ。」と言われたのがNPOへ向かったきっかけ。

日本の元気をもう一度。採用面接でそういえば自分はこんな事を話したなとを思い出すように。



【会場からの質問】


Q  働くことについてどう考えているか?


小沼)

自分の志を体現すること。

今が人生で一番楽しい。こういうことをやったら自分の周りが変わったと考えている。


新井)

人の役にたつことをやる。

実感があればそれでいいと考えている。


牧野)

会社の力を使って世の中に何か起こしたい。

NPOと組んで喜んでもらえると嬉しい。


Q 実現したい未来。感じている壁、不安などについて聞かせて欲しい。


牧野)

不安なのは格差。先進国とそうでない国の格差が色々な問題を起こしている。

この解決には時間がかかる。

かかる時間をいかにして短くすることができるかわからないのが不安。


新井)

日本は課題先進国。裏返すとこれを最もチャレンジできる国でもある。

そんな社長がたくさん活躍することが望ましい。

不安はまだ知名度のない会社なのでたくさんの人に鎌倉投信を知って欲しいという事。


小沼)

課題解決先進国へ。

目を輝かせて取り組むことをソリューションとして提供する。

解決が楽しいメンタリティを生み出したい。


Q 5Cを生かした事業は学生からの起業で出来るか?


小沼)

できる。自分はマッキンゼーを三年で辞めたので社会人経験はほとんどない。

一生懸命やっているとできない部分は誰かサポートしてくれる。

面白い未来を描けていれば。


小暮)

何をしたいのかによる。

企業経験がないと大変。特に企業とつなげること。

企業の力を100%引き出したいと考えた時に企業経験がないと難しい。

できるが、難しい。



Q 優先順位を「株主」「社員」「社会」「消費者」でつけるとすると?


牧野)

優先順位はつけられない。全部大事。全体のバランスが崩れるのがいけないと本社からも言われている。

すべて大事だが、その中でできる・できないを考え抜く。


新井)

あえて言うなら「社員」「お客様」「社会」「株主」の順。

社員が元気で働くことでお客様が喜ぶ。そうして一緒に社会を形成している。株主はそういった活動の縁の下の力持ち。


Q なぜこのように話せるのか?


小暮)

好きだから自信を持ってできる。


新井)

使命感。誰かがやらないといけない。みんなが磨いてくれる。


牧野)

誰かの為になりたい。それを実行できるポジションにいるのがモチベーション。他人のためにしたことは返ってくる。


小沼)

応援するという立場。やりたい人と一緒になってする。説得ではない。


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