SIF-Japanの定例勉強会 SRI事情・初級編 水口剛氏 ― 2013年05月10日
NPO法人 社会的責任投資フォーラムの第46回定例勉強会に行って来ました。
日 時:2013年5月9日(木) 18:30〜20:30
場 所:東京ウィメンズプラザ
講 師:水口剛氏(高崎経済大学経済学部教授・経済学部長 SIF-Japan(共同)代表理事)
■ 現在の投資が抱える2つの問題
一つはショートターミズム。短期間で利益をあげようとする傾向。市場に流動性をもたらすという見方もあるが、人間は合理的に行動できないので一方向に突っ込み過ぎる傾向がある。また、本来出資したお金がビジネスで使われて利益を生み出したものから投資家に利益が還元されるものではないのか?
もう一つは投資と投機の外部性。ある経済活動が当事者以外にも影響を及ぼしてしまう。
世界人口は70億人になり、2050年には90億人とも言われているが、中国やインドの新興国がこのまま人口が増えながら経済成長していくと地球の環境容量の限界を超えてしまうのではないか?
そこで地球環境の器の中で経済活動を行うようにすべての意思決定において持続可能性に配慮した「責任ある経済」への転換が求められている。
■ SRIファンドから「責任ある投資」へ
第一世代のSRI
1920年代にアメリカやイギリスの教会が教義に反する酒・タバコ・アルコール系企業を除外した投資
第二世代のSRI
1970年代のアメリカで反戦・人権・環境保護運動などと連携した投資
株主総会へ議案を提出したり、よい企業を選ぶという特徴
第三世代のSRI
1990年代以降、アメリカやヨーロッパの大手金融機関が環境・社会の要素を加味した投資先の選別を行うことでよりよい投資利益を生み出すことを主張した
責任投資原則(PRI)
2006年に国連が機関投資家のすべての運用にESG問題を投資の分析と意思決定のプロセスに組み込むことを求める責任投資原則を策定。世界中の機関投資家に呼びかけた。
■ 責任ある投資の方法
スクリーニング
悪い企業を排除もしくは良い企業を選別する
インテグレーション
アナリストがESG項目も調査し、統合的に評価する
エンゲージメント
投資先に改善を要求する。アメリカは対決性が強く、ヨーロッパでは経営陣との対話を重視。
■ 世界のSRI市場規模
2012年、世界全体で13.6兆ドルの資金がESGに配慮されて投資されている。これは機関投資家の運用の20%を占める。しかし、内訳はヨーロッパが65%、アメリカが25%とここだけで世界中の90%。
東京証券取引所は世界第三位の証券取引所だが、日本のSRI市場はわずかに0.1%。
日本でも選択肢は広まりつつあるが、なぜ諸外国と比較して残高が少ないのか?
ヨーロッパやアメリカでは公的年金や政府系年金といった巨大な機関投資家が積極的に国連PRIに署名している。日本では保険会社と企業年金のみ。(運用会社の署名は多い)
■ なぜ、責任ある投資をすべきなのか?
学術論文20本中、ESGが投資成果にネガティブ3本、ポジティブ7本、中立10本。
UNEP-FIではESG要因を投資判断に組み込むことはマイナスに働く証拠はないと結論づけている。
年金はユニバーサル・オーナー。ほとんどすべての企業に投資し、投資成果は市場全体を反映するため、目先の利益よりも持続可能な社会に投資した方が合理的である。(例.環境に配慮しない投資をした結果地球温暖化が進みタイで洪水が起きて投資先の会社に工場に被害が起きるなど)
サッカーでは「ピッチを壊すようなことはするな」と呼ばれる。
ユニバーサル・オーナーとしてではなく、例えば電車には並んで乗るなどと言った行動における一種の規範があることが合理的な結果につながる。(例.電車にみんなが割り込みで乗ろうとすると結局乗り切れない)
しかし、「倫理」に訴えるのは機関投資家に受けが悪い
倫理は組織で行うことではないという考えと、倫理は利益と対決するものと見なされ、受託者責任を果たさないと見られてしまう。
■ 提言:責任ある投資を日本でも広めるために
機関投資家の投資行動に規範を組み込むために制度的な裏付けをつけてはどうか?
国民年金法・厚生年金保険法を改正し、「持続可能な社会の実現に配慮しつつ」の文言を追加する。
そうすれば公的年金も責任ある投資をするようになるのでは?
■ 統合報告
統合はなぜ必要か?それは投資のあり方が変わりつつあるから
投資家向けの情報開示に環境・社会の要素を統合したものであり、アニュアルレポートにCSR報告書を統合するという事ではない。
財務的資本だけでなく自然資本、ソーシャル・キャピタルをいかに使って価値を生み出すのかビジネスモデルを説明するもの。
□ 参加した感想
勉強会の題名にSRI事情・初級編と銘打っていますが、中級者以上向けの話もあって基礎から結構深いところまで一気に勉強することができました。
第三世代のSRIと責任ある投資(PRI)では実際に投資するポートフォリオにどのような違いが生まれるのかについて質問しましたが、第三世代まではSRIかそうでないか?というものであったが、PRIは全ての投資行動にESGを組み入れるという事でポートフォリオではなく、コンセプトが異なるという事でした。
昨年、SIF-Japanの勉強会で講師としてお話させていただいた際、今のSRIファンドのポートフォリオは時価総額の大きな企業群で構成されていてわざわざスクリーニングをした意味がわからないという点を話しました。ですので、機関投資家が投資の全てでESGを意識したところで結局投資される対象に対して差が出るとは思えません。(補足すると現行のSRIやESGでは各種ESGの指標についてポイント付けして総合的に判断するため、まんべんなく様々な取り組みをしている大きな会社に有利になり、小型株をそぎ落とすだけのスクリーニングになってしまっていると思います)
確かにGPIFなどがPRIに署名すると日本のSRI残高は増えるのでしょうが、じゃあポートフォリオの中身はどう変わったのか?というところを見るとさして変化がないのでは何のためにやったのか意味がわかりません。法制化して機関投資家に対して責任ある投資を促すよりも前に、責任ある投資とはこういうものだというのを運用会社がしっかりと実態として示す必要があるのではないでしょうか?
例えば自然食品の店に行ったのに店頭に並んでいる商品が普通のスーパーと代わり映えしなかったら、自然食品の店という看板に何の意味があるの?って感じると思います。
それと同じような胡散臭さが今のSRIやESGにはあると思っています。
また、森林の世界だとFSC森林認証というのがありますが、これは森林の環境保全に配慮しながらも地域の社会的な利益にかない、経済的にも持続可能な森林を認証する制度です。この制度だと適切に森林に手入れをしながら利益も生み出すという事ができているのか検証することもできると思いますが、責任ある投資やESG投資の場合、「責任ある」「ESGに配慮」と言いながらもそうやって投資した結果が本当に持続可能な社会づくりに寄与したのかどうか評価しているようには思えません。なぜか、金融リターンがどうだったのか?という研究や検証に終始しています。
ソーシャルなインパクトを求めてESG投資しているわけではないというのが背景にあるのかもしれませんが、マイクロファイナンスが本当に貧困解決に有効なのか?というのを検証する開発経済学に相当するような経済学も必要なのではないでしょうか?
最後に国連PRIの機関投資家向けガイダンスを紹介してレポートを終わりにします。
by m@ [講演録・セミナーレポート] [社会的投資] [コメント(0)|トラックバック(0)]
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