ブランドをビジネスにどう生かすか? ライフネット生命 中田華寿子氏2013年05月19日

一般社団法人バトンが開催している横浜サカエ塾、東京開催の二回目はライフネット生命の常務取締役中田華寿子さんでした。マーケティングを担当されていて『10万人に愛されるブランドを作る!』という本も書かれています。

中田さんはスターバックスの日本進出に携わったり、英会話のGABAのマーケティングを得てライフネット生命のマーケティングを担当されています。これらの会社に共通しているのは顧客をファンにしているという点。ブランドとは流行や廃りがないもので企業と消費者の間に心地よい関係が確立されている状態という事でした。

保険というのは不思議な商品で必要に迫られて入るものの入った後はどんな商品だったか気にならないという特殊なもので、どうやって顧客に良さを感じてもらうのかライフネット生命では苦心したと言います。

■ 戦略その1 他社がやれないこと、やらないこと、やりたくないことをする

ベンチャーの三重苦と呼ばれるのは
 ・知られていない
 ・信頼がない
 ・現状に満足していてニーズに気づいていない

開業前に言われていたのは保険というものは複雑でわかりにくいので営業員が説明して売れるもの。インターネットでは売れないというものでした。

開業当初はセミナーに参加する人もまばらで理念に共感したと言ってくれてもなかなか契約に繋がらず、出資者をやきもきさせる日々が続きましたが、徐々に認知度も上がり5年たった現在では10万人が17万件の保険契約をしています。

マザーズ上場の際には契約者とその子供と一緒に東証の鐘を鳴らしました。一般的には出資者などが勢揃いして鐘を鳴らしますが、こうすることでお金をかけずに契約者の方の満足度も高まり応援してもらえます。このように同じ事でも工夫して少しでも応援してもらえるような仕組みを考えます。
昨年行った株主総会もフロアは別ですが契約者の方やマスコミの方も読んでオープンなものとしました。

他にも様々なアワードで受賞をしていますが、これは自分達でも積極的に応募をしています。
とにかく聞いたこともない会社では保険を契約していただけないので第三者に評価をしてもらうことも重要なことです。

■ 戦略その2 認知度×信頼度(共感度)をあげていく

ライフネット生命の場合は認知度をあげると契約数に効果があることが分析からわかりました。
そこで、認知度が上がるような仕組みを考え、色々なことを行いました。

■ 戦略その3理念からぶれないこと トップの顔が見えること 正直であること

この3項目は会社の人格。理念=軸がぶれないことが重要です。
社長と副社長は年間200回以上講演で全国を行脚しています。とにかく、10名集めていただければどこにでも行くと。少ない人数でも社長が来てくれたとそこから感動が生まれます。ネットで販売するからこそ顔の見える体温を感じるリアルなコミュニケーションを大切にしています。そこからブログに書いていただけたりといったソーシャルメディアを通じた口コミが生まれます。

また、取材はメディアに取り上げられるために本業以外の何でも受けるようにしています。他にも様々な調査を行なうことでその結果をマスコミが利用して報道する際にライフネット生命がデータの出典元として露出するようなことも狙いました。ライフネットジャーナルもマスコミ向けにヒマネタでも取り扱ってもらえるようにとあえて社員が記事を書いてマスコミ向けに送付しています。以前ライフネットジャーナルのダメ出しを募集したところマスコミのプロから真剣にたくさんの指摘をいただき、そういったところでも良い関係づくりに取り組んでいます。

デイリーポータルZやはてななど異色のコラボも多数行なっていてソーシャル上の認知度では大手に引けをとらないところまで来ています。


テレビCMについて投資家から反対の声もいただきましたが認知度を高めるためにまずは小さくやってみようと。出口社長はなんでもまずはやってみようと言ってくださる。だめだったら変えればいいと。
こう言っていただけるので様々なことに取り組んでみる事ができるのです。
実際に福岡限定でやってみるとTVCMをやっていない他地域と比較して契約数が大きく伸びたので今度は他の地域でもやってみるとそこでも効果がありました。そこで大都市圏では効果が認められるということでTVCMを積極的に行うようにしました。


□ 感想

「若い世代が安心して子供を生み、育てることができるように保険料を半額にします。」というシンプルな理念に共感した人達がファンになってソーシャルメディアを通じて口コミを生み出していくという手法はベンチャーが大手にはない認知度を高めていくために有効な手法だと思いました。

ここまでは他社でもやっているところがありますが、ライフネット生命が徹底していたのはそれをとにかく様々なところで次々と行った行動力に尽きると思います。とにかく身軽で全員がマーケティング担当という意識でソーシャルメディアを活用した点が初期にしっかりとファンを獲得できたことに繋がったと思います。

あとは10名集まれば全国どこでも講演に行きますというのも実際に来てくだされば感激しますよね。
インターネットを通じた契約という事で無機質になりがちな中でもしっかりとリアルなコミュニケーションを重要視していて、ファンはまず「ヒト」につくというのも印象的でした。

元リッツカールトン日本代表の高野登さんも大手が嫌がることを積極的に行うことで逆にリッツカールトンのブランドとしたというホスピタリティについて話されていましたが、ライフネット生命も形は違えど同じようなホスピタリティを生み出したのだと思います。

ベンチャーたるもの世の中との接点を増やしてなんぼです。いかにいい理念や商品をもっていても知られないことには埋没してしまいます。広告はしない。口コミマーケティングを生かしたいと武士は食わねど高楊枝のような事を言うベンチャー企業は広告はしない代わりにいかにして自分たちを世の中に露出させるかを考えぬいて次々実行していかないといけません。いい事をしているからと待っているだけは時間だけが過ぎていきます。

ライフネット生命は生命保険という業態から黒字化には時間がかかるようですが理念に共感した若い契約者に支えられて今後も楽しみな会社だと思いました。生命保険会社にとって加入者の多くが30代以下というのは大きなアドバンテージですよね。しかも共感ベースで加入しているので単純に保険料が他より多少高かったとしても乗り換えのリスクは低そうです。

資本主義3.0として時価総額からソーシャル・キャピタルへのパラダイムシフトが提唱されていますがライフネット生命はまさにそこを目指して邁進している会社といえるのではないでしょうか?

□ 横浜サカエ塾の紹介

「大人だからこそいま学びたい」テーマについて低価格で様々な講師によるセミナーを受講することができる場です。人間が生きていく上で避けては通れないツールでありながらきちんと学ぶ場がなかった「お金」についてのテーマが多いですが、他にも食育や今回のマーケティングのようなテーマもあります。

6月19日にはまさにライフネット生命流のマーケティング手法を使って起業したココナラの南社長がオトナの起業について講演されます。

自分の視野をぐぐいと拡げてくれる大人の寺子屋のような横浜サカエ塾のセミナーをぜひチェックしてみてください。

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