社会的責任投資(SRI)とは
社会的責任投資(SRI)ファンドが日本に初めて誕生したのが1999年の日興エコファンドだと言われています。既に誕生から13年が経過していますが、あまりたくさん買われているようには見えません。
社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan)の調査では、日本のSRIファンドの残高は2012年6月末現在で2,225億円で、1999年から2011年9月末までの公募SRIファンド残高のグラフを見ても2007年をピークに減少傾向があるのが見て取れます。(出典:SRI市場残高 SIF-Japan)
SRIの概念をSIF-Japanでは下記のように定義しています。
「企業への株式投資の際に、財務的分析に加味して、企業の環境対応や社会的活動などの評価、つまり企業の社会的責任の評価を加味して投資先企業を決定し、かつ責任ある株主として行動する投資手法」
「社会的(Social)な価値を実現する手段としてのSRI(Socially Responsible Inbestment)から社会の持続可能性(Sustainability)の追求と起票の包括的な価値を評価するSRI(Sustainable and responsible Investment)に替わりつつあるのです」
社会的か社会持続可能性かというのは置いておいても、単純に儲かるか?儲からないか?ではなく、投資という活動を通じて社会へ何らかのインパクトを与える積極的な投資の姿がそこにあると思います。
社会的責任投資(SRI)の評価
最近では企業年金や労働組合でもSRI的な考え方を取り入れようという動きがありますが、SRIファンドはどのように評価するのがいいのでしょうか?
投資信託評価機関のモーニングスターは自社でもSRI指数を算出していますが、今年の三月にSRIファンド投資を再考するという記事を書いています。
投資信託評価機関らしく、リターンを分析しており、国内に投資するファンドとの相関を比較した結果、国内バリュー株との相性がよいのでSRIファンドを組み合わせて分散投資してみてはどうか?という事を書いています。
他にもSRI投資は一般的な株式ベンチマークよりもリターンが高いという研究結果もあったりします。
でも、SRIファンドってリターンが主目的なんでしょうか?
儲けたいから、インデックスよりも高いリターンが得られそうだから投資するものなんでしたっけ?
もともとはイスラム教やキリスト教の教会などが教義に反しない範囲で投資をするというところから生まれた考え方だったのが、こうした方が儲かりそうだからという事を前面に出して販売するのはどうなんだろう?と思います。(もちろん、儲かりそうだから買う人がいてもいいですけど)
結局、リターンがいいですよというのが目的で購入した人は株価が低迷すると売ってしまいますし、そこが日本においてSRI投資が根付いていない根本的な理由なのではないかと考えています。
会社員として働いていると仕込んでから形になるまではそれなりに時間がかかるものだというのは実感していると思いますが、投資に関しては年金を含めて短期目線のプレイヤーが多いと思います。
短期目線の投資家が悪いわけではなく、短期目線な投資家とSRIという投資哲学は相性が悪いんです。
社会的責任投資(SRI)の評価に欠けている点
社会的責任投資(SRI)ファンドをリターンやリスクなどの金融リターンをベースに評価することはこれまでもされていました。例えば、ファンド評価機関による表彰でも
R&Iファンド大賞では「国内SRI・環境関連」というカテゴリーがあって優秀なファンドを表彰していますが、あくまでもリターンが評価されたものです。他にもモーニングスターのファンド・オブ・ザ・イヤーでSRIファンドが選ばれることがありますが、それもSRI的な視点ではなく金融リターンがベースです。
でも、社会的責任投資をうたうのであれば、どれだけ社会に良いインパクトを与えたのか?こそが評価されべきものではないでしょうか?
SRIファンドは外部評価機関に投資対象となる企業群を選別してもらっていますが、そういうCSR評価機関でも企業のCSR活動の表彰などを行なっています。例えば、インテグレックスという会社では誠実な企業賞という事で表彰をしています。2012年度は最優秀企業にオムロン、優秀企業に三井物産、ベネッセホールディングスが選ばれています。
こういう観点でSRIファンドのポートフォリオを評価してみることもできるはずです。
モーニングスターは自社でもSRIインデックスを持っているくらいなので、やろうと思えばできると思うんです。そして、SRIポイントの高い企業で構成されたポートフォリオがどんなパフォーマンスを残すのかに興味があります。
社会的責任投資(SRI)ファンドの不満な点
東日本大地震の後に一部のSRIファンドは東京電力の組入れを止めた事を公表しましたが、企業の不祥事があった際に、それに対してどういう行動をとったのか公表するSRIファンドは皆無です。
これって、あくまでもSRIの考え方で投資先企業を絞り込んだ後に、その中で売ったり買ったりファンドマネージャーが頑張ってますっていう姿勢の現れだと思うんです。
だから、企業に不祥事があってもいちいちレポートなんか出さないで平気でいられるんです。
真面目にSRIファンドを買った人がいたとしたら、企業に不祥事があったら自分が持っているファンドは持っていなかったかな?って心配になると思いますし、持っていたとしたら潔く売って欲しいと思うんじゃないかと思います。
外部評価機関に投資対象を絞り込んでもらってますってのも大いに不満です。
SRIファンドなんだから、自分でそのくらい判断しろ!
例えば、株式ファンドでうちはアナリストを抱えていません。世界的に信頼のおける◯◯証券のアナリストレポートを読んで投資対象を検討していますと堂々と公言する株式ファンドがあるでしょうか?恥を知れと言いたいです。
もう一点不満をあげるとしたらSRI的な観点で運用報告がされていない点です。
運用報告書は金融リターンの説明が主だったもので、SRIファンドなのにそれでどういった社会的インパクトが起きたか?が書かれていないんです。
運用会社は顧客リストを持っていないので受益者向けの説明会ができないのであれば、販売促進も兼ねてオープンな運用説明会を開催するなどして、SRIファンドはこういう観点でこの会社を買いました。売りました。議決権行使しました。信託報酬の寄付金はこういうNPOへ寄付してこういう使われ方をしますなんていう報告はSRIファンドだからこそ求められているのではないでしょうか?
NPOだって集めた寄付金はどのように使われたのか?そしてそれはどれだけのソーシャルインパクトを与えたのか?という事を評価して報告しています。なぜSRIファンドの運用報告は金融リターンだけなのでしょうか?SRIファンドだからこそ、SRI目線での報告も求められているはずです。
SRIファンドではありませんが、ワクチン債やマイクロファンド債というようなインパクトインベストメントに分類される商品も、販売するときは「集めたお金でこんな事をします。金利も高いし、世の中に貢献できるのがウリの債券です」って説明用の資料がありますが、売った後のレポートって見当たらないんですよね。
あれも、結局債券がメインでワクチンだのマイクロファイナンスはおまけの塗装でしかないと販売サイドが考えているからそういう事になっちゃうんだと思います。証券会社に「そういえば自分が買ったマイクロファイナンス債でどれだけの人に融資されたの?」って質問する人が来ても困るんでしょうけど。
困るじゃなくて、インパクトインベストメントを名乗っているなら1年に1回くらいは報告会があってもいいでしょ?
結局、社会的責任投資(SRI)ファンドを買って欲しい投資家は誰?
社会的責任投資(SRI)ファンドの投資家の裾野を広げたいと思うのであれば、既存の儲けたいと考えている投資家が対象なのではなく、投資に対していいイメージを持っていない一般の人こそが対象なのだと思います。
学生に株の売買方法を教えるくらいなら、投資って社会に対してこんなにいい事なんですよっていう綺麗事を、綺麗事として説明するのが唯一成立するのがSRIファンドだと思うんです。
だからこそ、そこで説明されるSRIファンドのポートフォリオは傍目から見ても納得できるようないい企業群でないといけないんです。
ただ規模が大きくてお金があるからCSR活動にも予算が振り向けられているだけの会社じゃなくて、ちゃんとストーリーが語れることが大事です。
SRIファンドは共感を生み出すソーシャルな繋がりでじわじわと広がる事ができる素質はあるのに、リターンがいいよとか違った層にアプローチされてしまって残念な感じになってしまいました。
お金は持っていないと思うので残高は一気に増えないと思いますが、それこそ企業のCSR活動の一貫だと思ってSRIファンドの啓蒙活動をしてみるのはどうでしょうか?
持っていることを公言できるようなファンドに
以前、某雑誌のSRI投資に関する取材を受けた際にSRIファンドを持っている知り合いを知りませんか?と聞かれました。(自分がほとんど持ってないのとSRIファンドに否定的な話をしたのが原因だと思いますが・・・)
ブログやツイッターなどのソーシャルメディアでもインデックスファンドや鎌倉投信などは持ってますと公言する人は多いのですが、SRIファンド買いましたって人はなかなかいないんですよね。
生命保険でも日本生命や第一生命はわざわざブログに書く人はいないと思いますが、ライフネット生命になるとブログに書きたくなるんです。ライフネット生命の副社長の岩瀬さんは金融とソーシャルは相性が悪い。なかなか生命保険は外部に話してくれないと言っていましたが、それでも生命保険の世界ではライフネット生命とソーシャルの結びつきは深いと見えます。実際に自分の勤務先の会社でも社内ブログにライフネット生命
を勧めるエントリーを書いた人がいました。それだけ、満足感が高いんだと思います。(ちなみに自分は全労済です)
投資がこれだけ印象よくない中で、他の人にこんな投資してますって話せるのってなかなかできることではありません。
投資の集まりで話しているところがテレビで放映された後に、お前は騙されているって忠告の電話をもらった人や、とあるセミナーで話していたFPさんが雑誌の編集者さんから変なのに騙されてませんか?って心配されたりとこれは結構根深い問題です。
自分もブログではハンドルネームで活動していますが、ミュージックセキュリティーズのファンドに関する取材に関しては世の中の見た目も違うだろうしという事でテレビを含めて実名で取材を受けています。そういう気持ちになれる存在を目指して欲しいです。
寄付ならもともと少額からでもできるのに、なぜファンド形式にこだわるのか。
そこをよく考えてほしい。